遭難ワークショップ2015
こないだの日曜日。
篠山ABCマラソン2015に出場。
事の経緯は、大阪に住む小学校からの同級生がここにきて腹の出たおっさん化が進み、そろそろ運動しようかなということになり、強制的に運動せざると得ないという環境を用意しようということでマラソン出場を決意、一人で出るのは寂しいからという理由で声がかかったと。
僕自身は一昨年のABCに出ていて、その際足の負傷がひどくなったのでもう二度と走らないと心に決めていたんですが、せっかくなので出ようと思い立ち。
結局、二年前の負傷はいまだに続いていて、マラソンに向けてトレーニングすれば、痛くなったりする日々。長距離を走れば走るほど、その痛みを避ける為に他の部位を使いながら走ろうと無意識化で調整する為、意味不明なところが筋肉痛になったりする日々。
古傷が痛いのをなんとかすべく、一年前くらいからうちの住人、山根に診てもらって。
痛みの原因は、右足の親指が外反母趾気味になっているところから、人差し指との接触部分が痛くなってるんじゃないかということで、親指の健を意識的に鍛えるようにしてきた(親指で爪先立ちしてみたり等)のと、指と指の間を広げるトレーニングをしたり。
痛みが慢性的なもんなので、短期的な治療では難しいという感じなので、当日までになんとかなったらいいなと思いながら、自己治療に励みつつ。
まあ、僕としてもこの年で歩けなくなるとかまじうざいだけなので、完走は意地でもするとして、とにかく時間はどんだけかけてもいいから故障しないようにゴールしようという気持ちで参戦。
当日。雨降りまくり。テンション激低からスタート。
朝飯はカレー。素人のフルマラソンは、体力や筋力が勝負なんじゃなくて、空腹との勝負であることは前回で痛感したので、しっかり食べた。本当にトル〇コの気持ちがよくわかるんですよフルマラソンは。
2時間前にはついておこうと思って8時過ぎに家を出るも、すでに駐車場が満車ばっかりで、仕方なく一番遠いコーナン駐車場に停める。篠山城まで歩いて20分くらい。天気予報を見ても夜まで雨マークになっていたので、着替えは置いていくことに。
受付して荷物置いて、雨をしのぎながらスタートを待つ。
ストレッチする場所もなく、ただただ雨の中待つ。
この日ゲストランナーとして有森裕子氏が来る予定だったらしいが、インフルエンザをこじらせて今日はこないと。プロとしてどうかという議論はさておき、代わりに?きたのが安田大サーカスの団長さん。芸能人という肩書きをとってしまえばただのおっさんなのに、仕事とはいえマラソンをさせられる羽目になるとはなんて可哀想な。大変やね、芸能人。
そんなこんなで雨の中スタート。
最初20km地点までは順調な走りだし。一切とまることなく2時間で到達。この調子でいけば4時間切れちゃうんじゃないかと一瞬頭をよぎったものの、今回の目的は足のケガを悪化させることなくゴールするが目的なので、欲張らないことに決め。
20kmにいると事前に話をきいていたなかにし事務機の中西さんに遭遇。黒豆おにぎりを10個くらい食べ、あったかいお茶をすすりながら劇的に一服。10分間程くつろぐ。お土産に一本満足を三本もらう。ポケットがパンパンになる。
あとで聞いた話だが、ここで同じようにくつろぎすぎて、今日はもうええわってことで満足しきってしまうリタイヤ組が続出していたんだそうな。戦時中の空襲時に水を飲んで満たされた瞬間息絶える方々がたくさんいたという歴史的話題がふっと頭をよぎった。
“欲しがりません、勝つまでは”の精神は、闘う上で大事だ。
再び走り出したはいいが、お腹が一杯になりすぎた&いきなり坂道だったので、しばらくゆっくり歩いて、24km地点で再びふるまわれていた猪汁を存分に堪能。今思えばなぜ先程のおにぎりとセットで提供されないのか。もしセットで提供されていたらリタイヤ組が倍増していたであろう。
25km地点。前回もここで心が折れ掛けたポイント。ここから35km地点までが片道5kmの折り返しルートで、すでに続々とランナーが折り返していっている中を走っていかなければならないゾーンで、すでにびっくりするくらいの人が折り返し終わっててやる気が壮絶に失せる。
しかも今回、この25km地点に差し掛かった頃くらいから雨脚が超絶強まり、ほぼ横殴り。しかも向かい風。おまけにすでに全身ずぶ濡れ。
真っ向から凍てついた風を浴びた瞬間、
“あ、あかん、これ死ねるやつや”
という感覚になる。
そう、風が強すぎて、自分の内側から製造されるエネルギー量が風によって奪われる熱量がはるかに上回ってしまっている感覚。
もうここから先、歩いてるだけでは死が待っているだけ。リタイヤしてやろうかと頭をよぎったが、どこをどう見ても緊急車両がかけつけてくれる気配は感じないし、温かい休憩所もほぼないし、おまけに温かい休憩所があったとしても、服がぬれているので体温が保持できない。
つまり、走る以外に選択肢はないんだなと悟り、前へ。
しかし、この時すでにこれまで休み過ぎた間に体がキンキンに冷え切っており、おまけに足が普段であればこんなに凝り固まることは絶対にないというレベルで足がパンパンに。筋肉が冷えすぎて硬直するという現象を初めて体験。おまけにもうすでに握力も全くない。ほっといたら凍傷になりそうなレベルで手がかじかんでいて、着ている服の袖を伸ばしたところで袖がぬれているから全く意味がない。
止まったら人生の終了という強迫観念の中再び走り出す。それにしても寒い。
つい寒い寒いと口走ってしまうくらい寒い。そんな時、ふっとこないだ家の台所での光景を思い出した。
僕が寒い寒いといっていたら、最近居候しているやつに
『井口さんあのね、寒い時に寒い寒いいうから、寒く感じるんすよ。ほら、あったか~いって言ってごらん。あったかくなってくるから』
と言われたのを思いだし、あったか~いと言ってみた。
すると、体が寒くて力がガッチガチに入っていたのが、スーと力が抜け、おまけにふっと眠たくなってきてフランダースの犬の名シーンが鮮明に浮かび上がってきた。これ、あかんやつや、冗談通じへん危険なやつや遊んでる場合やないということで、カッチカチに固まった足をかばうような自分でも不思議な感じでとにかく走った。
気合で32km地点折り返し。
この時すでに関門締切15分前であるとのアナウンスが。ここまで余裕かまして遊んでいたのを後悔し始めるとともに、走りたいのに冷え切った足が固まってリアルに動かなくなってきて、動かなくなってきたことによって色んな体の部位がかばいまくっているおかげであちこちが痛くなってくる。
手のかじかみ具合が半端ないせいか、気づいたらかなり強烈に手を握り締めていたことに気付き、すでに手が筋肉痛気味。どんだけ寒いねん。
自分の体の中から生まれる熱量が足りなくなってきて、このままではやばい何か補給せねばと思ったら先程20km地点でもらった一本満足がポケットの中にあるではないか。しかも三本も。
早速補給をしようと思い、走りながらポケットに手を突っ込み、一本満足を取り出していざ食さんと開けようとするも、手がかじかみ過ぎて開かない。一刻も早く満足させてほしいのにどんだけ頑張っても開かない。仕方なく歯でかみ切って開ける。ここまでくるともはやバーリートゥードの世界。あるものは全て使う。使えるものは全て使うの世界。
一本満足を走りながらほうばる。想像を絶するほどに口の中の水分を奪う材質でできており、走りながら食べていると呼吸困難に陥りそうになる。おまけにまあまあ量がある。必死で一本食べた。こんなに一本で満足でさせてくれるとは。恐ろしいネーミングセンス、言い得て妙な商品でございました。三本もいりませんでした。
このあたりから道端で倒れてる人をしばしば見かける。
顔が完全にキマッてる感じの人も。恐らくあれば体力の消耗ではなく、低体温症。もろに。アルミホイルみたいなんを身にまとっている人も。もはやマラソンに必死の領域を超えた、生き残るための壮大な遭難ワークショップだこれは。
36km地点。再び猪汁。止まるともう動けないと思い、サクッと飲んでサクッと前へ。
この時点で関門10分前ですのアナウンス。やばいやばい迫ってきた。別名おいかけてくるバスから逃げ切るゲームであるこのマラソン。遊んでいたあげくに完走できないことほどさぶいものはない。これは己との闘いだ。
この当たりから全然足が動かないし、膝も曲がらなくなってきて。
トレーニングが足りないとかそんなんじゃなくて、とにかく冷えがすごい。冷えってすごい。冷え切ったらこんなんなるんやってくらい。右足が全く動かないからほぼ左足の親指だけで蹴って進んでるような感覚で走っている自分もすごい。変な能力に目覚めた感が出る。
最後、城の曲がり角に到達。残り10分ですよのアナウンスが。
死力を尽くしてなんとか5分前にゴール。なんにも嬉しくないし一刻も早く帰ってお風呂に入って焼肉食べて寝たい感がすごかった。
ゴールしたのはいいものの、ここからコーナンまで歩かないといけない。周辺は車が規制されているのでタクシーとかそんなもんは当然存在しない。
服は濡れたまま。着替えは車の中。裸になったら捕まる。どないせえっちゅうねんという感じで、死力の中の死力を尽くして、背中に死を感じながら1時間かけてなんとか車のもとへ。
車の中で服を脱ぐ。脱いだだけであったかい。風が吹いてこないということがどれだけ幸せなことだったのかを身を持って知った。暖房をがんがんにかけてみたら、体が徐々に解凍されていく感じになった。解凍される肉の気持ちがわかった。新鮮なままで居させてほしい。冷凍の肉に対し優しくなれそう。
帰り、一緒に走っていた友人を大阪までのせてくことになり、途中赤松SAで休憩。
同じように足ひきずっているランナーがたくさんいた。“足引きずってるやつは大体トモダチ”とかいう訳のわからない偏見の眼差しが出来上がった。
そんなこんなで、風呂に入り、焼肉食って終了。どうもお疲れ様でした!
【後書き】
マラソンって、開催するの大変でしょうねほんと。
42.195kmに渡ってゴミだらけ。ゴミ箱設置してあんのに。そんなに自分のタイムが大切ですかね?オリンピック選手の大会でもないのに。
後になって聴いた話では、たまにスペシャルドリンク(自分でこの地点でこれ出してって事前にお願いしておくやつ)行方不明になってそれを怒り狂って怒鳴り散らすやつもいるんだとか。一人でやったらいいのにね、マラソンくらい。そっちお勧めします。
僕は篠山マラソンしか走ったことないから、他のがわからないので偏見かもしれないですが、篠山は晴れてたら気持ちいい農道ばっかりやし、沿道はずっと地域の人が老若男女問わずいて声援を送ってくれるし、お菓子とかくれるし、めっちゃええマラソン大会ちゃうかなって思います。特に都会から参加した人とかだと、そう感じるんじゃないかな。
お金払ってんねんからゴミくらいええやんけ沿道でも応援くらいあって当たり前やろなんていう方は他のレースではったらいいんじゃないですかね。10000人の参加枠も一瞬で埋まってるし誰も困らないしそっちの方が万人にとって嬉しいんじゃないかなと。
雨天決行したらあかんのちゃうかって思うんですが、仕方ないですよね、こんだけ大掛かりに準備して。引き下がれないと思います。大会は雨天決行でも、ほんまに決行するかはランナーが決めなあかんなと思いました。
地元の人も、参加する人も、両方うれしくてたのしいみたいなマラソン大会あったらいいですね。