あらゆる人を包み込んでいく農家と“農福連携”の在り方を考える


兵庫県丹波市山南町に、“笛路村”という、13世帯しかいない集落があります。

 

 

四方が山に囲まれ、源流と呼ばれる川の最上流に位置し、代々お百姓さんたちが積み上げた石垣の棚田を綺麗に保全する原風景が今も存在しています。

 

笛路村には集落全体で8町(約8ヘクタール)しか農地がありません。世間一般的には米農家が収支的に安定できるようになるには最低でも4町程は必要だと言われており、農業を営むには条件的に不利であると言われる土地柄。

 

 

今回、インタビューさせていただいた竹岡農園さんは笛路村の最上部に位置し、露地野菜を中心に無農薬・無科学肥料栽培で生産活動を行い、米ぬかを発酵させた肥料作りや種の自家採取を行う循環農法に取り組んでいます。
また、近年では農業だけにとどまらず、里山レストランや酵素風呂、里山ようちえん等、多岐にわたる事業展開を行っています。

 

関わる様々な人から親しまれ、愛されているコミュニティがここにあります。彼らが思い、感じている農業と福祉の関わりについて、伺ってきました。

 

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目次:
福祉現場から始まった竹岡農園
竹岡農園と福祉の関わり始め~ナチュラルタイムとキャンプ~
現状の農福連携が抱える課題の考察
農福連携が描くべき在り方

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イベント参加者を迎える竹岡正行さん(写真左)

 

 

福祉現場から始まった竹岡農園

 

 

――― 竹岡さんは農業の前に福祉と関わりがあったんですよね?

 

 

そうですね。大阪教育大学の大学生だった頃に、脳性麻痺とか寝たきり障がい者の生活保障をするというボランティア団体があって、それがきっかけですね。

 

僕が福祉に関わり続けている理由は、そこで出会った脳性麻痺の方との出会いで。

 

 

必要とされれば絶対に行くという生活でしたね。

 

部活もバイトもしていたので忙しい時もあったんですが、自分の都合で帰ろうとしたら『おれを殺す気か』みたいな突き付けがあったりして。最初は本当に面食らいましたよ(笑)

 

脳性麻痺の人というのは、誰かが一緒にいないと生きていけないので、すぐ駆けつけられないと命がなくなる恐れがありますんでね。

 

 

――― ・・・それでよく怖じ気づかず辞めなかったですね(笑)

 

 

“お世話してあげてる”みたいな感覚でお世話するボランティアさんに対して、介護拒否されたりしてましたね。

 

それでもその姿に、生きる強さって言うか、僕の知らない世界が多聞にあるなあと思ったんですよね。

 

障がいを持った人の気持ちって、究極のところ、障がいを持った人にしかわからないんですよね。

 

例えば、寝たきりの人はベッドの上で真横から世界を見るじゃないですか。仮に健常者が同じように横になってやってみても、それは一瞬だけ。

 

障がい者はずっと、それでしか世界が見ることができない。その人の着眼点じゃないと、感じ取れない世界観が絶対的にあるんですよね。

 

ほんと、それが自分の想像を遙かに超えていたんですよ。

 

 

 

――― そう捉えられる竹岡さんは希有な気がします。ほとんどの人が、福祉を嫌になりそうですが・・・

 

 

確かに、そこまでして頑張る必要があるのかって思いますよね。

 

福祉現場における一つの課題かと思いますが、僕はお互いに理解しあおうという気持ちがあれば、それで最初はいいと思いますね。

 

“健常者ベースの介護”か、“障がい者ベースの介護”かという話はよく出ます。

 

僕も最初よく怒られましたね。

 

例えば、障がい者の方がトイレに行きたそうだったので、溲瓶を用意してズボンのチャックを降ろしてあげた時に『なんで当事者の許可もなく勝手にチャックを降ろしたんだ!健常者ベースの介護しやがって!』ってね(笑)

 

「こいつやったら自分の体を任せられる」という感覚というか、そうした安心感というのは非言語のコミュニケーションですよね。

 

「僕は、どう自分を変革したら受け入れてもらえるようになるんだろうか?」と真剣に悩みましたね。わからなかったんですよ。

 

その脳性麻痺の方に言われたんですよ。

 

『介護技能だけでみるとお前は歴代の中で上だし、お前の介護は暖かいけど、関係性が、自分を理解してもらいにくいように、自分でしてる』って言われたんですね。

 

相手を理解してやっと、自分の命が預けられるようになるんだと。

 

(竹岡農園で働くスタッフ)

 

 

――― その方も、言葉や態度とは違う暖かいものを感じますね。では今は、どういうことだったか理解できましたか?

 

 

最近になってようやく、その意味がわかりましたね。

 

住み込みで働く、年が一回りも下のスタッフを雇い入れてからです。

自分の気持ちや考えが理解されないって、相手が何考えているかわからないのって、しんどいなって(笑)

 

何を考えているかわからない相手に、下の世話とか、自分の体を全部預けるのは本当に苦痛やったやろなあというのが、実感としてわかったんですよ。

 

言葉としてはわかっていましたけど。わかっていたつもりだったんですね。

 

 

――― 実感としてわかる。大事な学びを得たんですね。

 

 

強い弱いで言えば、究極のところ、健常者は障がい者をどうこうしてしまえる存在じゃないですか。

コントロールしてしまえる存在というか。

だから、強者なんですよどうしても。

 

なので、弱者を差別してしまえる存在であるということを教えてもらえたのが本当に自分の中で大きかった。

 

被差別者とか差別者とかじゃなくて、もっと人間と人間の、自然な交流のカタチがあるんちゃうかな、あっていいんちゃうかなって思い始めるようになって。

 


(竹岡農園の黒豆の枝豆)

 

そこでたまたま当時、父の建てた家があった笛路村に遊びに行って、村の人に黒豆の枝豆をもらったんです。

その黒豆を、介護の現場にいたみんなで食べたら、立場関係無く、みんなで感動したんですよね。

 

その脳性麻痺の方も、それまでの4年間、一度も笑った顔を見たことがなかったのに、『美味いなあ!』って、満面の笑みで。

その時に「美味い食べ物って、時間かけてもなかなか越えられない人間関係を飛び越えていくんだな」と。

これが農業に繋がったんです。

 

“自分が主人公”でやっちゃうと、相手の何かを傷つけることがある。

相互理解しながらやっていくことがとても大切で。

 

何より、障がい者ってほんますごいんやなって思えたのは宝でしたね。

その人じゃなかったら、ここまで思えなかったと思います。

 

 

竹岡農園と福祉の関わり始め~ナチュラルタイムとキャンプ~

 

 

――― 竹岡農園を始めてからの、福祉関連事業について教えてください。

 

 

まず最初に、竹岡農園を始めてすぐに“ナチュラルタイム”という事業が始まりました。

 

 

きっかけは、小学校の同級生が障がい者の作業所の事業主をしていて。

そこのレクリエーションの一環で、竹岡農園の野菜を作業所で売りたいという相談を受けたんですね。

 

僕としては、障がい者の人と一緒に働いたことはなかったので、どういった感じになるのかと試しにやってみようという具合で受け入れを始めました。

 

ナチュラルタイムは月に1回行っている事業で、就労継続支援B型の知的障がいを持った方が各回5,6人程、農園にきてもらって農作業をしてもらっています。

 

皆さん、最初は集中力が5分程度しかもたない、長時間作業ができないという方がほとんどなんですが、半年もしないうちに1時間半くらいは集中して働けるようになったりします。

月一回しかやってないのにですよ。

 

専門家が見てもこの変化は目覚ましいものがあると言われるんですが、福祉の現場というのはどうしても“障がいだからずっと直らないもの=個性の一部”として捉え、できなかったらできなくていいよという対応になりがちなんですね。

 

他に何かできそうなものはないか?とまでは探らないことが多いんです。

 

でも、農作業の場合はありとあらゆる系統の作業があります。

その中から自分の得意なもの、できるものをやってくださいというスタンスで関わります。

 

そうすると、必ず一つ二つと出来ることが出てきます。

出来るようになるとやっぱり、嬉しいんですよね。

嬉しいから、頑張れるようになっていきます。

 

そして自分が必要とされている、皆と一緒なら頑張れるという感覚が芽生え、自ずと技能も伸びてくるといった好循環を実感しています。

 


(ナチュラルタイム2018の集合写真)

 

 

――― 素敵な事業ですね。僕も一度参加させてもらったことがあるナチュラルキャンプについても教えてください。

 

 

 

ナチュラルキャンプはナチュラルタイムの拡大版といった感じのもので、障がい者の方とボランティアを募集し、毎回50人程の人数で一泊二日のキャンプをします。

 

最初はボランティアの方々は福祉の経験がない素人の方が多かったですが、最近では福祉関係者も多くなってきました。

 

このキャンプではとにかく目の前の人間と向き合う力が一番必要になります。

 

障がいは知識がどうとかいいますが、そこじゃないんですね。

知識があっても、目の前の人と向き合う気持ちがないと意味がないんですよ。

 

目の前の人を大事にする力とか、一緒にいる時間で如何に一緒に課題解決するかとか、そういったスタンスでいれる社会人をどれだけ増やせるかがこのキャンプの意義だと思っています。

 


(ナチュラルキャンプ2017の様子。開始直後はまだまだ余所余所しい)

 

 

――― ボランティアスタッフ達にあれしてこれしてって指示しないのも斬新だなあと思いましたね。

 

 

健常者も障がい者も、老若男女問わず、自分で考えてっていうスタンスのキャンプですからね(笑)

 

『どうしたらいいですか?』という指示待ち人間じゃなくて、『こうした方がいいと思うんですがどうでしょう?』という、自分の意見を持ち合わせるスタンスは、どこの社会でも必要とされる人だと思いますしね。

 


(ナチュラルキャンプ2017。関わる時間が経つと次第に打ち解けていく)

 

 

――― ナチュラルキャンプは、本当に皆が素の、ありのままの自分達で接し合っているのがとても印象的でした。

 

 

そうですね。一日目の始まったばかりの頃は皆どうしていいかわからず、どう接して良いかわからず、どう自分を出していいかわからず戸惑うところからスタートします。

 

やはり障がいを持った人がいるので、転んでしまったり、突然ふさぎ込んでしまったり、色んな想定外が起こったりするんですね。

そうして突然生じる課題をどうやって解決するかを自分たちで一緒に考え、乗り越えていくうちに、夜にはすっかり打ち解けているんですよね。

 

“みんな違っていい”なんて言われる言葉がありますが、健常者からすると障がいを持っている人は最初から自分達と違うことがわかります。

 

逆もしかり。それをどう認めるか?認め合うか?

 


(ナチュラルキャンプ2017。ふさぎ込んだ子もどう関わるか、参加者が一緒に考える)

 

日頃から健常者は、「みんな同じだ」という前提で物事を進めていることって多いと思うんですね。

 

特に日本人は人種や言語、生活環境などの共通する背景を持ち合わせすぎている側面も影響しているのかと思いますが、それでもしっかりと一人一人見ていけば全員何もかも一緒な訳がないじゃないですか。

 

“全員が一人一人違う”という前提でいれるかどうか。

 

健常者は障がい者と一緒にいると、“当たり前”が違うので、ものの見方が変わります。

それが結局、健常者を楽にする側面があったりするんですよね。

 

“みんなと一緒じゃなくてもいいんだ”って。

 


(ナチュラルキャンプ2017。すっかり楽しくなってボール遊びに参加)

 


(ナチュラルキャンプ2017。みんな大好き五右衛門風呂)

 


(ナチュラルキャンプ2017。夜にはすっかり皆が皆楽しんでいる)

 

 

――― 竹岡さんがナチュラルタイム、キャンプをやり続けている目的はなんでしょう?

 

 

障がいをもっている人の価値をわかってほしいんですよ。

 

障がいをもっている人は、生きているだけで価値があり意味があるんです。

障害をもっている人にとっては、ただ生きるだけでも健常者よりハードルが相当高いんですよ。

 

存在しているだけで価値があるということがどれだけ伝わるか。

 

生きているだけで本当に十分な労働じゃないですか。

勇気とか、精神活動とか、重さが全然違いますよね。

 

このナチュラルタイムもキャンプも、障がいをもった人達が社会の同調圧力とか何かしらのストレスを受けていたら駄目ですね。

 

素のままで、ありのままの自分で入れたときに初めて健常者を癒やせる存在にもなる。

なので、常に障害者ペースで在るべきだと思ってやっています。

 


(ナチュラルタイム2017。自然は全てを解放していく)

 

 

現状の農福連携が抱える課題の考察

 

農福連携とは、障害者等の農業分野での活躍を通じて、自信や生きがいを創出し、社会参画を促す取組であり、農林水産省では、厚生労働省と連携して、「農業・農村における課題」、「福祉(障害者等)における課題」、双方の課題解決と利益(メリット)があるWin-Winの取組である農福連携を推進しています。―農林水産省HPより抜粋―

◆農林水産省ホームページ
http://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/kourei.html

 

 

――― 農福連携の事例やデータを見ていると、様々な課題にぶつかっていて広がり切らないといった現状が見受けられます。

 

 

そうでしょうね。

ある程度想像がつきますが、“障がいをどう受け止めて良いかが農業側はわからない。

福祉の人達は農業の可能性がわからない”んじゃないかと思いますね。

 

言葉で言うのは本当にすごい簡単なんですね。

 

 

昔ながらの日本の農業って本当にあらゆる作業があります。

特にうちのような他品種少量生産の農家は特にですね、さすが“百姓”と言うだけはあります。

雨の日でも晴れの日でも、障がい者の方が行うにあたり適正な作業が必ずあります。

 

『これがあかんかったらこれやってみ』が出来ます。

『一人でやるのが難しかったら二人でやってみ』も出来ます。

 

昨今の、大型機械がほとんど作業してしまうような一品種大量生産の現場では難しいとは思いますが、その人に一番合う作業を見つけてあげるのが農業側の責任だと思いますね。

 

一方で福祉側は、障がい者にとって居心地のいい空間をつくってあげられるかの責任があると思います。

 

当たり前の話なんですが“障がい者”という言葉も、“健常者”という言葉と同じで、一言で障がい者といっても色んな人がいるんですね。

 

一人の方がやる気がでる人もいれば、複数人で作業する方がやる気がでる人もいる。

特定の人が近くに居ればやる気がでる人もいる。

じっとしているのが好きなんですが、でも動く作業をやってもらってみると、予想外にいい動きをすることもある。

 

こうした、見極めができるかどうかがポイントになります。

 

 

 

――― 見極め。言葉でいうのは簡単ですが・・・というやつですね。

 

 

健常者が障がい者の人に対して『あなた今サボってるでしょ』って言える人はなかなかいないんですよね。

ちゃんと見極めていないと。

 

僕も、一回り下の雇った子を見極めるのに10ヶ月はかかりましたね。

うちに住み込んでいるのに、ですよ。

ジェネレーションギャップもあって障がいもあるとなれば、相当見極めが難しい。

 

どうしても福祉の現場というのは、「問題行動を起こさずに社会適用させてね」っていう暗黙の空気があるから、障がい者を無理に働かせたりはしないしリスクとってまで危険なことはさせないようなところがあります。

 

こうした福祉側の理解というのは、どうしても関わったことがある人にしか理解しにくい側面があるので、農業と福祉の連携というのは福祉の方の理解が大前提になると思われますね。

 

現状、福祉側の事業者が農業分野に手を伸ばす方がうまく機能しているというのは、うなずけます。

 

 

――― データでは農作業が障がい者にいい影響を及ぼすことがわかっているのに、広がらないというのはやはり経済的な側面が難しいように感じています

 

 

その通りだと思います。

正直、売上や利益といったお金の面だけで見ると障がい者を雇うのは難しいと思いますね。

 

もちろん、法律がやりにくくしている側面もありますよ。

竹岡農園では就労継続支援B型の方と一緒にやっているのは実際に動いてもらった工賃で済むからという理由も正直あります。

A型は最低賃金を保障しないといけません。

 

その場合、農業に限らずですが、新たに立ち上げる事業を最初から成立させて従業員に賃金を支給し続けるというのは、健常者同士でも相当ハードルが高いですよね。

 

一般的な経営者からすれば、「誰を雇い入れるか?どう雇い入れるか?」を考える上で選択肢が沢山あるわけじゃないですか。

障がい者じゃなくてもいいわけです。

 

およそ経済活動の中でのメリット、デメリットだけで考えるのは無理があります。

 

 

 

――― 障がいを持っている方と向き合った機会がない方には見えづらいでしょうね

 

 

障がいをもっている人の価値をわかっている人っていうのは、正直ほとんどいないと思いますね。

せめて障がい者と向き合ったことが5年くらいある人でないと難しいのかなと。

 

やっぱり、まだまだ日本や世の中は成果主義の資本主義じゃないですか。

 

僕自身は、障がいをもっている人は人間関係を円滑にしてくれる、全然違う観点でものをゆってくれるので人間関係が豊かになると感じています。

ナチュラムタイムも、そこを狙ってやっている側面もあります。

 

ナチュラルタイムの日は、普段雇用しているスタッフからすると楽なんですね。

その日だけは、世間でいう“能力主義”“成果主義”“資本主義”ではなくなる日なので楽なんです。

全ての作業が、意識が、障がい者のペースに寄り添ってやるので、健常者は楽になるんです。

 

ナチュラルタイムは、最初の5年程は村の人もボランティアに入れてやっていました。

すると、村の人もみんな普段より気楽にできるから笑顔で楽しくできるんですよ。

 

また、一緒に作業を行う云々の前段階の、相互理解みたいなところでキャンプが機能してるんじゃないかなと思っていますね。

どんな人かもよくわからないのに、一緒に何かをするというのは難しいところがあるので。

 

 

 

――― “経済主義”“成果主義”の観点だけだと、障がい者も結局辛くなる気がしますね

 

 

こうした事業をする人は、自分たちで実践しながら学び続ける必要があると思いますね。

 

繰り返しになりますが、本当に言葉で言うのは簡単なんですが、実際になると出来ない人が沢山でてくると思います。

結局、能力主義的なものの見方だけすると、障がい者の中でも優劣みたいな見方になってしまうんですね。

 

農業は生き甲斐、やり甲斐、イキイキするみたいなところに僕自身はずっと魅力があると感じています。

 

自然のある環境で、障がい者も伸び伸びすることができる。単に、売上や利益だけで見たら、もうそもそも農業じゃなくて他の内職している方がよっぽどいいということになってしまうんじゃないかとも思いますね。

 

 

 

農福連携が描くべき在り方

 

 

――― 福祉に何の経験もない農家が農福連携をやろうっていう場合には、どう進めていけばいいんでしょうね?

 

 

う~ん。大前提として、障がいをもった人と、“ちゃんと対話する意思をもつ”というのが大事ですね。

自分のさじ加減では決めない覚悟といいますか。

 

あと、農業のちゃんとした技能をもつというのは当たり前の話ですけどね。

 

 

――― “ちゃんと対話する意思をもつ”って、よく考えれば健常者同士でも当たり前のことですね。

 

 

そうそう。

 

健常者同士でさえも相手と壁つくる人には難しいでしょうね。

時間はどれだけかかってもいいと思うんですが、“あの人は苦手やから、嫌いやからはじこう”とか、そういうのは論外ですね。

健常者傷がい者関係なく、どんな人とでも向き合うという意思がないと。

 

向き合った結果、決裂するならいいけど、単に馬が合わないというような理由で決裂するようなスタンスでは実現できるイメージがないですね。

 

最近、離婚する際の理由として“考え方の不一致”で離婚するなんてことが多いみたいですが、考え方が合わないから決裂するのではなく、考え方が違うことをお互いに認め合う。

そして、お互いの為にどうしていくかを考える。

そんなスタンスが求められるでしょうね。

 

僕自身も、ナチュラルタイムを始めた時は知的障がい者を相手にした訳ですが、それまでの経験としては身体障がいをもっている方の相手しかしたことがなかったんですよね。

経験があるかといえばはじめてに近かったんですよ。

 

でも、向き合う気持ちがあったから進められたと思っています。

 

 

 

――― 農福連携を考える上で、何の為に行うのか?といった目的の設定も大事な気がしますね。

 

 

僕自身が福祉に関わるのは、関わる人が今より豊かになる為に、よくなってもらう為にやっています。

どうせやるなら、今よりちょっとでもいい方向に上昇させたい。

常々そう思っています。

 

でも、福祉の現場というのはどうしてもリスクよりも現状維持を選ぶことが多い。

でも僕は、よくなるならリスクとってもやりたい。

スタンスの違いをどうしても感じますね。

 

ナチュラルタイムやキャンプは、『こんなんありなん?』とかよく言われますよ。

福祉の仕事に関わる人からすれば相当怖いことをやっているように見えるんだと思いますね。

 

この取組みに参加してくれた人が、他の人に紹介してくれた時も『何のメリットがあってやっているのか?』と、よく聞かれるらしいんですよね(笑)

 

作業所も基本的には、同じ人にずっと居て欲しいと思っているところが大半だと感じますね。

 

でも、そうして障がい者を囲い込んでしまうことで、実際には自分たちの世界も狭まっていることになっているのではないかと、客観的に見て思うことがあります。

 

 

 

――― 経済的な観点だけでは、成立しにくいでしょうね。

 

 

そうなんですよね。

 

福祉と経済は、個人的には本当に相性が悪いと思っています。

僕自身、福祉一本で生きていくことを選ばなかった理由はここにあります。

双方、よくなるならいいけど、お金が絡むとどうしてもそうならないことが多いように感じて。

 

もちろん、うまく回している先もあるんですが、全体的にはそうなっていない感じがします。

僕がまだまだ未熟だっただけかもしれませんが、福祉を仕事にして、生活はできるようになるかもしれない。

 

でも、お金が手に入っても、それだけで「果たして人生がよくなっているのか?」と言われればわからない。

それが嫌だったんですね。

 

なので、農福連携の目指す先、つまり目的が経済活動だけなら、きっと詰まるでしょうね。

 

ただ、それがコミュニティの学び合いであったりとか、人生の豊かさを求めていくものだとかなら、きっとどこまでも広がると思いますね。

 

 

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